■宮廷シナリオ プロット■ ●シナリオ名  「なれば宮廷で罪と踊る」 ■シナリオ諸元 推奨プレイヤー人数:2〜4人 推奨PC逸話数:1つ 篇:1 ****** ■物語概要■ ●物語の背景  ドラクにて小領地“アルトロート”を任されし領主、フランクが住まうアルトロート城。  彼の城の宮廷に騎士たちは足を踏み入れた。  最近、真祖崇拝の神殿への冒涜、そして太陽崇拝をしているらしき正気を失った民たちの多くがこの領地から多く出ていたからだ。だが、領主であるフランクはこれに関して音沙汰がなく、救援や助力を請うこともしていなかった。  騎士たちが訪れたのは、その真意を確かめ解決の協力を申し出るためである。  宮廷を進むと、全身を覆うようなローブを纏った領主フランクと、彼の近衛騎士であるエリザの姿があった。  フランクは騎士たちを快く迎え、歓迎の宴を催すことにした。騎士たちへの応対はそこで行うという。  開かれた宴には民たちも集まり、騎士たちをもてなすために葡萄酒の樽が開かれた。  騎士たちの持つ杯に葡萄酒が注がれようとしたその時、事は起きた。  突如として堕落者――黒山羊(ルビ:くろやぎ)が耳に障るような雄叫びをあげ、正気を失った民を率いて宮廷へと押し掛けて来たのだ。集まっていた民らや従者は堕落者への恐怖に悲鳴を上げ、逃げ惑った。  先頭に立つ黒山羊は歪(ルビ:いびつ)な笑みを騎士たちに見せ、率いられている正気を失った民は騎士を愚弄する言葉を叫ぶ。  目の前に存在する堕落者、そしてここに集まった無辜の民を騎士が見過ごすわけにはいかない。  ことの真相を確かめるためにも、騎士たちは具現化させた己が武具を執った。 ●物語の真相  アルトロート城が主、フランクはローブで隠しているが堕落の兆しとして両足が黒山羊のそれと化している。  彼は私欲にとり憑かれ、堕落者を討ち取ること――領主でありながら、騎士としての名声や武勇で民や他の騎士たちからもてはやされる己を想像し強く求めたのだ。  だが、彼は知略に秀でていても決定的に武芸の才能が欠如(ルビ:けつじょ)していた。  フランクにはエリザ・マイゼンブーク・フォン・ローゼンブルクという近衛騎士が居る。  フランクは彼女の勇壮な姿と持ちうる武芸に憧れと尊敬、そして信頼を抱いていた。だが、それらはやがて嫉妬へと変化していった。  エリザは己の武芸を主がためとして振るう。与えられる誉(ルビ:ほまれ)は自身ではなく、主に捧げられるべきものだと彼女は言う。しかし、フランクにとってそれは最早、己の惨めさを強く感じさせることだった。  フランクはエリザを貶めるために計画を立て、長い期間に渡り実行している。  まず、彼は“アルトロート”やその近郊に堕落者が現れるのを待った。そして現れた黒山羊を自らも同行し討伐した際、秘密裏にその血を懐に忍ばせてあった瓶へと注ぎ、露見せぬように具現化を使い透明化して持ち帰った。  フランクは領地へと戻ると、秘密裏に手に入れていた麻薬を一部の民に与えて拡めた。それによって民から冒涜的な行為への抵抗をなくし、それを餌に他の騎士を釣るためだ。更に彼は自らが犯人であることを隠すため、実験も兼ねて麻薬によって正気を失ったひとりの民を叙勲したその後、堕落者の血を飲ませた。  叙勲された民は憐れにもフランクの思惑通りに堕落し、黒山羊と化してしまう。民を洗脳した黒山羊は、彼らを率いて物語の背景に書いてある通りにアルトロート城へと暴動を起こすこととなる。  フランクは最後にエリザを堕落者に仕立て上げ、やってきた騎士(PCたち)と共に堕落した彼女を討つことだけを考えている。  これまで暴かれずにいたのは、ひとえにフランクの智謀が優れていたからにほかならないだろう。  そうした私欲を満たすために、フランクは無辜の民や騎士たちを巻き込んだのである。 ■NPC ●“鴉片卿(ルビ:あへんきょう)”フランク・アルトロート・フォン・ドラク  性別:男性 叙勲年齢:20歳 騎士歴:150年  【概要】  鴉(ルビ:からす)の濡れ羽のごとき美しい黒髪を持つ青年騎士。  ドラクの小領地“アルトロート”を任され、その城に住まう領主がこの“鴉片卿”フランク・アルトロート・フォン・ドラクである。  決して気丈だとは言えないが、知略に富み、民のために最善を尽くし、名君たらんとしている。  武芸の才能に恵まれず、それでも剣を振るおうと日夜励んでいる。その姿に、彼を知る騎士の多くは敬意を覚えていた。  フランクは近衛騎士である“雷閃卿(らいせんきょう)”エリザ・マイゼンブーク・フォン・ローゼンブルクに尊敬と憧れ、そして強い信頼を置いている。  “アルトロート”で起きている事件はPC@に任せているが、自分も頭を悩ませているという素振りを見せる。  現在“アルトロート”で起きている不穏の全ての元凶であり、実行している騎士。  両足が黒山羊になっているため、全身を覆うようなローブに身を包んでいる。  エリザへの心象は表面とは真逆にあり、羨望と疎ましさ、そして激しい嫉妬が渦巻いている。  全てが終わった先の未来は自身にとって輝かしいものであると信じており、最早止まる気はなく、されど最後の最後まで顔に出さぬよう心掛けている。 ●“雷閃卿(ルビ:らいせんきょう)”エリザ・マイゼンブーク・フォン・ローゼンブルク  性別:女性 叙勲年齢:18歳 騎士歴:62年  【概要】  “鴉片卿(ルビ:あへんきょう)”フランク・アルトロート・フォン・ドラクの近衛を勤めている女性騎士。  フランクの領主として発揮される知略、そして民を思う気持ちに感銘を受け、遍歴から近衛となった経歴を持つ。  主であるフランクを敬愛しており、自身の剣は主のために振るわれ、栄光は主に捧げられるというのが彼女の口癖である。  だが、彼女はそれが己の主にとってどういう感情を抱かせているのかを知らない。 ■ハンドアウト ■PC@  消えざる絆:フランク【主または敬】 推奨の道:近衛・遍歴 ・序言  貴卿がドラクの小領地“アルトロート”の領主であるフランク卿の下で過ごして久しいものだ。  城には貴卿用の私室も用意されているし、彼は訪れた騎士たちにもとても良くしてくれる。  だがここ最近、不穏な噂が絶えない。この“アルトロート”の民から多くの不逞(ルビ:ふてい)を働く者が出て、フランク卿は頭を悩ませている。  フランク卿には大恩がある。故に貴卿はこの事件を解決せんと申し出て、フランク卿から任されることとなった。  この日も、村の様子や民がおかしな事をしていないか、されていないかを見に行く途中だった。  その時貴卿は、アルトロート城に向かいたいという騎士(PCもしくはPCたち)と出会う。  PC(たち)はフランク卿に用があり、出来るならばこの事件解決の協力をしに来たと言った。  ならば無下にする理由はない。訪れたPC(たち)を連れて、貴卿はアルトロート城へと向かう。 ■PCA  消えざる絆:エリザ【友または信】 推奨の道:遍歴・狩人 ・序言  貴卿は長く旅を続けている。一つの場所に長く留まることはなく、領地を転々とする渡り鳥のような騎士だ。  そんな旅を続ける貴卿には、一際印象に残っている騎士がいた。“雷閃卿”エリザ・マイゼンブーク・フォン・ローゼンブルクという女性騎士である。  かつて一度立ち寄ったドラクの小領地“アルトロート”で起きた黒山羊の討伐へと貴卿が参加した際、エリザ卿に助けられたことがあった。  彼女の事をふと思い出した矢先、貴卿はとある噂を耳に挟む。  ドラクの小領地“アルトロート”から真祖崇拝の神殿への冒涜、そして太陽崇拝をしているらしき正気を失った民たちが多く出ているというのだ。  “アルトロート”と言えば、今ちょうど思い出していた懐かしき地。かつて彼女に助けられし恩をもしかしたら返せると思い立ち、貴卿は彼の地へと出立した。 ■PCB  消えざる絆:フランク【敬または侮】 推奨の道:夜獣・遍歴 ・序言  貴卿がドラクの小領地“アルトロート”を任されし領主、“鴉片卿”フランク・アルトロート・フォン・ドラクと出会ったのはいつのことだっただろうか。  知略に富み、民への思いを強く語る彼の姿を見たのはどれくらい前だっただろうか。  貴卿はフランク卿に武芸の才能がないことを知っている騎士のひとりだ。だが、それを必死に埋めようと努力していたことも知っている。  そんなフランク卿が領主を務める“アルトロート”に関する、よからぬ噂を貴卿は聞いた。  決して勇敢だとは言えないが、されど民に関して人一倍に名君たらんとしていたフランク卿の手助けをするため、貴卿は彼の地へと出立した。   ■PCC  消えざる絆:エリザ【敬または欲】 推奨の道:領主・賢者 ・序言  貴卿はドラクの小領地“アルトロート”の近隣の領地に腰を落ち着けている騎士だ。  “アルトロート”を任され治めている領主、フランク卿との交友を持っている。  かつて貴卿はフランク卿から最も信頼している近衛として“雷閃卿”エリザ・マイゼンブーク・フォン・ローゼンブルクを紹介され、その武芸を披露してもらう機会があった。  エリザ卿の演武は素晴らしいの一言に尽きた。貴卿は彼女を手放しに敬い、賞賛した。  そして、同時に欲しいと思ったこともある。今はどちらの感情が強く残っているだろうか。  そんな“アルトロート”の地が最近、よからぬ噂の大元となっている事を貴卿は知っている。  貴卿は立場上かんたんに領地から出られずにいたが、それもようやく許されることとなる。  友とその忠厚き臣下の助力となるべく、貴卿は彼の地へと出立した。 ====シナリオの手引き==== ■開演前 P223の記述に従い、「開演前」の項目を実行する。 ●ハンドアウトの配布  DRは必要に応じて、ハンドアウトの読み方をプレイヤーに教えること。  PCが3名以下なら、必ず「ハンドアウト:PC@」と「ハンドアウト:PCA」が選択されるようにすること。PLが2人なら、「ハンドアウト:PCB」と「ハンドアウト:PCC」は提示しなくてもよい。  PCの自己紹介は特に希望がなければ、ハンドアウトの順番で行うのがよいだろう。 ●状況説明  DRは「物語の背景」を読み上げるとよいだろう。必要に応じて、専門用語や世界観などの補足を入れること。 ●篇  このシナリオでは、〔常の幕〕〔戦の幕〕のうち、まず〔戦の幕〕が発生する。 ■戦の幕  この幕では、黒山羊と惑わされし民に相対する場面が描かれる。  事の真相を知る前の壁を越えるために、騎士たちはその武具を振るう。 ●諸元 NPC種別 〔端役〕惑わされし民(兵士役/P264を参照) エリザ(味方役/P264を参照) 〔脇役〕黒山羊(P258を参照) NPC配置 【庭園:惑わされし民×2/宮廷:惑わされし民×2 黒山羊/玉座:エリザ】 存在点 黒山羊:〔参加PC数×4〕点 行動値 黒山羊:〔参加PC数×10〕 [壁の華] 惑わされし民:PCの任意。騎士としては、気絶(ノワールによるもの)や一時的に正気を取り戻させる(ルージュによるもの)などして逃すとするのが好ましいだろう。ただし黒山羊によって[壁の華]にされる場合はその限りではなく、重症を負うことも死亡することもあるかもしれない。 エリザ:ルージュならば、一旦身を引いてフランクの護衛に専念し始める。ノワールならば、その場に膝をつき民に囲われ動けなくなる。 黒山羊:絶叫しながらその場に倒れる。封印することも可能。 場所 庭園:庭園 宮廷:城内広間 玉座:城内広間奥、階段前 絆奏 黒山羊:【怒】 ●口上  DRは次の口上を読み上げる。  正気を失った民は、心無き言葉を叫び続けていた。  黒山羊は両手を挙げ、喉を鳴らしながら心地よさそうに下卑た笑みを貴卿らに浮かべた。  貴卿らは黒山羊に惑わされているのだろう民に囲まれ、そして眼前で悠々と立っているその元凶へと具現化した武具を向けている。  貴卿らの視界には、開けられた葡萄酒の樽を取り合うようにしている民の姿も映っていた。  そんな中、このドラクの小領地“アルトロート”が領主である“鴉片卿”フランク・アルトロート・フォン・ドラクは後ずさるようにしながら黒山羊を見やった。  その後、自らの近衛にこの場を任せ逃げ惑う民を誘導するために城内へ退いていく。  彼の命を受け勇ましく立つのは、美しき女性近衛騎士“雷閃卿”エリザ・マイゼンブーク・フォン・ローゼンブルクだ。彼女は細剣(ルビ:レイピア)を具現化し、堂々とした立ち振る舞いで構えていた。  戦いの幕をあげる合図のように、黒山羊の咆哮が轟き渡る。  それに応え、惑わされし民たちは興奮のまま右腕を大きく振り上げた。 ●詳細  DRは諸元に従い、各NPCを配置すること。そして全てのNPCの【存在点】を公開する。  次はプレイヤーにPCを配置してもらう。この時点では、PCは[庭園]か[宮廷]にのみ配置できる。  全てのキャラクターの配置が終われば、DRは236ページの手順に従い、[戦の幕]のラウンド進行を開始する。  この幕では宮廷内で乱入してきた堕落者――黒山羊および惑わされた民と戦闘を行う。  端役として登場する惑わされし民は宮廷と庭園に2体ずつ置かれるが、演出や描写として更に多くの民をエキストラとして登場させてもよい。  この民は騎士たちを歓迎する宴に参加していた者達とすれば、場を盛り上げる演出としても使えるだろう。  その場合、演出用の民は[壁の華]として扱う。 ・黒山羊について  同じエリアに居るPCは、上半身の体毛に赤い液体――葡萄酒が染み付いていることがわかる。  また、黒山羊はターンが回って来た際に玉座へと移動する。  《毒のある蜜》によってエリザの主となった場合、歓喜の声をあげるように下卑た笑みを浮かべる。そして、彼女に城にある葡萄酒を持ってこさせようとする。  黒山羊の存在点を0にせず2ラウンドが経過した場合。黒山羊は勝つことが出来ないと踏んだのか、その場から人々を盾に逃走する。  [壁の華]になった場合は絶叫しながらその場に倒れ、ヘルズガルドの騎士が居れば封印することも可能である。居なかった場合、ヘルズガルド家の当主であるマルグリット公が現れ封印してくれるだろう。 ・惑わされし民について  黒山羊に率いられている小領地“アルトロート”に住まう民である。この場の誰もが葡萄酒の香りを濃くまとい、酔っているようにも見える。そして彼らは葡萄酒を“中毒者”のように求めている。  端役のターンが回って来たならば、葡萄酒を差し出せと迫るように庭園から宮廷へ、宮廷から玉座へと移動する。  また、黒山羊が[壁の華]になっても彼らが正気に戻ることはない。 ・エリザについて  武具を構えながら、階段から先に行かせまいと民と黒山羊を見つめている。  同じエリアに入って来た騎士に対して「助力、かたじけない。私も前に出て戦いたいが、主を護らねばならんのだ。貴卿らが居合わせてくれたこと、心より感謝する」と口にする。  また、PC@やAには友のように接するだろう。  彼女が[壁の華]になった場合、PCからならば「すまない、ここは任せた」と言って後退しフランクの護衛に専念する。  NPCからならば、悔しさを表情に浮かべながら民と黒山羊の方を向き、胸を押さえながら膝を付く。  もしもエリザの主が黒山羊に変更された場合、その言動はおとなしくなり無言の人形のようになってしまう。彼女の状態は、黒山羊の存在点が0になるか、この幕が終わるまで回復しない。 ●黒山羊のセリフ 「共にこの葡萄酒を思う存分、啜ろうではないか」 「この宴は今だけに訪れ、許される」 (下卑た笑みを浮かべ)「メェェェェェエエエエッ!!」 ●惑わされし民のセリフ 「葡萄酒をもっと、もっとだ!」 「探せ、探せ! 領主なんだから蓄えているに違いない!!」 (我にかえった)「きっ、騎士様!? 私たちは一体なにを……!?」 ●エリザのセリフ (PC@に対して)「主は私に任せてくれ。貴卿は他の騎士と共に、あの堕落者を!」 (PCAに対して)「今の貴卿の力、存分に魅せてくれ」 (PCBに対して)「大変感謝致します。こちらは気にせず、貴卿の思うように!」 (PCCに対して)「貴卿の力、お貸しくださること。本当にありがたい!」 ●幕間  幕間の処理(P229)を行う。  各PCは任意のルージュまたはノワールを1増やすか、あるいは1減らしてもよい。  処理を終えたら次の幕に移行する。 ■常の幕  この幕ではアルトロート城の応接間を舞台に、フランク卿によるエリザ卿への糾弾が描かれる。PCはその場に登場する面々と交流しながら、どちらを信じるか選ぶことになる。  また、ここを分岐点として終の幕の展開が変わるため、注意を促しておくと良いだろう。 ●諸元 NPC配置 【庭園:なし/宮廷:なし/玉座:フランク・エリザ】 NPC種別 〔端役〕フランク(味方役/P264を参照) 〔脇役〕エリザ(好敵手/P255を参照) 存在点 エリザ:〔参加PC数+2〕点 行動値 エリザ:〔参加PC数×8〕 場所 庭園:応接室入口 宮廷:応接室中央 玉座:応接室窓側 [壁の華] フランク:腰を深く椅子に預け、静観し始める。 エリザ:ルージュの場合、気丈な態度をとり続ける。  ノワールの場合、失意のままゆっくりと応接間から出て行く。エリアからいなくなる。 絆奏 黒山羊【怒】 ●口上  DRは次の口上を読み上げる。  貴卿らが黒山羊を討つ(もしくは撃退する)も、民たちは正気に戻らない。  正気を失っている民はアルトロート城の従者たちによって広間に集められ、一時的に閉じ込められている。  戦いが終わりし後、貴卿らはエリザ卿に案内されて城内の応接室に訪れていた。  フランク卿は申し訳ないと告げながら、遅れてこの場所へとやってくる。 「あの場を任せてすまない。貴卿らの健闘のおかげで、大事なく済んだことに礼を述べさせていただく」  そう言ったフランク卿は深く頭を下げ、貴卿ら向き合うように座る。  全員が応接室に揃ったところで、貴卿らはアルトロート城へと訪れた目的と要件を伝えた。  フランク卿はそれに対し、憂いを帯びた表情で重々しく口を開く。 「申し訳ない。恥ずかしい話ながら、私としては内々に解決したかったのだ」  言いながら彼は、懐から粉末状の薬が入っている小瓶を取り出して貴卿らに見せる。 「だが、それも今日、ここで解決することとなる。私は既に元凶を探し当てているのだ。 ……そうだろう? エリザ卿」   ●詳細  DRは諸元に従い、各NPCを配置すること。そしてNPCの【存在点】を公開する。  次はプレイヤーにPCを配置してもらう。この時点では、PCは[庭園]か[宮廷]にのみ配置できる。  全てのキャラクターの配置が終われば、DRは236ページの手順に従い、[常の幕]のラウンド進行を開始する。  この幕では応接室でフランク卿、そしてエリザ卿のどちらを信じるかという分岐点となり、選択の結果、終の幕の展開が変わる。   応接室にはPCとNPC以外に誰も居ない。PCと彼らとの交流が自然と主となるだろう。 ・注意  フランク卿は[壁の華]になっても絵的には同じエリアに残り続ける。ただし彼からルージュを与えることは出来ず、彼を対象に取ることは出来ない。  エリザ卿のことをルージュで[壁の華]にした場合、彼女のことを信じることを選択したとする。(終の幕Aへ)  また、ノワールで[壁の華]にした場合、彼女のことではなくフランクを信じたものとする。(終のい幕Bへ)  プレイヤーが迷うようであれば、DRはこの選択肢を開示しても良い。 ・フランクについて  フランク卿は是が非でもエリザ卿を犯人に仕立て上げ貶めたいと考えている。取り出した小瓶の中身は麻薬であり、先の戦いでPCたちが戦っている中、彼が用意したものである。  これは仕上げの前の一手間であり自分を信じ続けるエリザ卿を精神的に打ちのめした後、ひとりきりになったところを彼は襲うだろう。  そして持参した堕落者の血を彼女に飲ませて堕落させた後、PCたちを呼び共に討伐することを考えている。  だが、それも2ラウンド目に入れば徐々に焦りが見えてくる。フランク卿は本来、臆病な性格だ。それ故、大一番で失敗することを極度に恐れている。  エリザ卿をルージュで[壁の華]にした時、彼の声は一段と荒くなり、ついに興奮から身に纏っているローブを翻し、その両足が黒山羊であることを見せてしまう。  フランク卿の顔はみるみるうちに青ざめていく。彼にとって、それは決定的な失態だ。  これにより、PCはその正体を看破することが出来るだろう。  彼は堕落の兆しを持つ不徳の騎士……完全なる堕落を目前に控えてもまだ、私欲に溺れる存在だということだ。 ・エリザについて  エリザ卿に罪はなく、勿論だがアルトロートで起きていた事件には一切関与していない。  彼女は身の潔白を語り、PCたちにルージュを与え続ける。自分はそのようなことなどしない、誇り高き騎士なのだと。民と主のことを信じ、戦ってきた騎士なのだと。   ●エリザのセリフ 「私は、そのようなことはしません! フランク卿! ○○卿(PCたち)! どうか信じてください!」 「私が騎士道に背き、そのようなものを持つ必要性が一体どこにあると言うのですか! 私は主の剣として、盾として過ごす毎日で既に満ち足りているのです!」 (ルージュで[壁の華]になった場合)「私は、騎士道に背くようなことは誓ってやってなどいません!」 (ノワールで[壁の華]になった場合)「そんな……私は、私は……! 一体、これまで何のために、この剣を……!!」 ●フランクのセリフ 「従者がエリザ卿の私室で見つけた、民に堕落をもたらす物だ。我々騎士には効かぬが、その効能はエリザ卿が一番知っているのでは?」 「葡萄酒と共に、この薬を配ったのだな。悲しいぞエリザ卿、私は貴卿を信じたかったのだがね」 (1ラウンド経過後)「エリザ卿、いい加減罪を認め告白した方が貴卿の為だと思うが? 貴卿らも、そうは思わないかね」 (エリザ卿がルージュで[壁の華]になった後)「なぜ、そこまで貴卿らはエリザを庇い立てる! 此奴は民を惑わせ、騎士道に背いた背徳者だろうに!」 ●ラウンド進行終了  エリザが「壁の華」となると、ラウンド進行は終了する。 ●幕間  幕間の処理(P229)を行う。  各PCは任意のルージュまたはノワールを1増やすか、あるいは1減らしてもよい。  処理を終えたら次の幕に移行する。 ■終の幕A  この幕ではPCらがエリザを信じ、狂乱したフランクは完全なる堕落によって黒山羊となる。  全ての元凶であるフランクが堕した先の姿である黒山羊と、アルトロートの地を平和にするための戦いが描かれる。 ●諸元 NPC種別 〔端役〕惑わされし民(兵士役/P264を参照) エリザ([壁の華]) 〔脇役〕黒山羊(P258を参照) NPC配置 【庭園:なし/宮廷:エリザ/玉座:惑わされし民(PCと同数) 黒山羊(フランク)】 存在点 黒山羊:〔参加PC数×10〕点 行動値 黒山羊:〔参加PC数×10〕 庭園:壁が突き破られた応接室 宮廷:廊下 玉座:城内広間 [壁の華] 惑わされし民:PCの任意。騎士としては、気絶(ノワールによるもの)や一時的に正気を取り戻させる(ルージュによるもの)などして逃すとするのが好ましいだろう。ただし黒山羊によって[壁の華]にされる場合はその限りではなく、重症を負うことも死亡することもあるかもしれない。 黒山羊:断末魔に似た雄叫びをあげながら、その場に倒れ伏す。 絆奏 黒山羊【怒】 ●口上  DRは次の口上を読み上げる。  正体を暴かれたフランク卿は、狼狽し焦燥に満ちた顔を右手で覆った。  その傍(ルビ:そば)に居るエリザ卿は、信じていた主が背徳の騎士だったことへの驚愕と戸惑いからか、呆然と立ち尽くしている。  その中で、フランク卿がその口を開き震える声で言葉を紡ぐ。 「……私は、そうだ。私は領主として、民に武芸で愛されたかった。騎士に武勇でもてはやされたかった。武勇で、武芸で……貴卿には、あるもので!」  ポツリとこぼれた言葉は、エリザ卿や○○卿(PC@A、居た場合Bも)に向けられたものなのだろう。 「私欲に溺れた結果がこれだ。これだよ。私は貴卿らが羨ましく、そして疎ましい! 何よりも、誰よりも! エリザ卿、貴卿の言葉一つ一つが私を惨めにしたのだ! そうだ、だから、これはその……報いなのだ」  ふらふらと応接室の窓際に後ずさった彼の姿が、急速的に変わっていくのを貴卿らは見ることだろう。  そして完全なる堕落をしてしまったフランク卿の姿は――黒山羊のそれだった。  黒山羊に堕ちたフランクは、壁を突き破り正気を失った民が閉じ込められている広間へ移動する。  雄叫びをあげて呻く民たちを立ち上がらせると、黒山羊は彼らに向けて言い放つ。 「民よ集え、私の元へ。皆で私を崇め、葡萄酒を飲もう。私こそが、真に愛されるべき者ゆえに」   ●詳細   DRは諸元に従い、各NPCを配置すること。そしてNPCの【存在点】を公開する。  次はプレイヤーにPCを配置してもらう。この幕では[庭園]か[宮廷]にのみ配置できるとする。  全てのキャラクターの配置が終われば、DRは236ページの手順に従い、[終の幕]のラウンド進行を開始する。  DRは必ず、終の幕では[戦の行い][常の行い]の両方が使用できる事をプレイヤーに伝えること。  この幕では完全に堕落を受け入れ、黒山羊と化したフランク卿との決戦を行う。  常に葡萄酒が配られながら男女が入り乱れ、その中で騎士たちは戦うこととなる。 ・黒山羊(フランク)について  フランク卿が堕落した先の姿である。城内の広間に集められていた民を率いなおし、アルトロート城から葡萄酒を運び出させている。  優先してPCの多く居るエリアへと移動する。 ・惑わされし民について  乱入してきた黒山羊に率いられていた民たちの残党である。  心無き言葉を叫び、葡萄酒を差し出せと叫び続けている。 ・エリザについて  エリザは宮廷に配置されるが、彼女にデータはなく〔壁の華〕として扱うこと。  彼女は信じ敬愛していた主の堕落によって心に深い傷を負っており、動くことが出来ないのだ。  戦いには参加せず、庭園(壁が突き破られた応接室)から移動することはない。 ●黒山羊のセリフ 「葡萄酒を飲め。必要なら私の血を絞リ入れよう。さすれば私やこの民たちのように、幸せになれるぞ?」 「邪魔をするくらいならば混ざれば良いのだ。共に饗宴を開こうぞ」 (狂乱しながら)「メェェェェェエエエエッ!!」 ●エリザのセリフ 「ごめんなさい、○○卿(PC@)。貴卿にも、重荷を背負わせてしまうことになる」 「どうか、せめてこれ以上の罪を重ねる前に……!」 ●ラウンド進行終了  黒山羊が「壁の華」となると、ラウンド進行は終了する。 ■終の幕B  この幕ではPCがフランクを信じたとして、PCが見ていない裏で彼が失意に沈むエリザに堕落者の血を飲ませ暴走させてしまう。  不徳の騎士と化したエリザを討つため、フランクが意気揚々とPCたちと共に戦う場面が描かれる。   ●諸元 NPC配置 【庭園:なし/宮廷:フランク/玉座:エリザ】 NPC種別 〔端役〕フランク(熱烈な味方役/P264を参照) 〔脇役〕エリザ(堕落寸前/P257を参照) 存在点 エリザ:〔参加PC数×10〕点 行動値 エリザ:〔参加PC数×10〕 庭園:応接室 宮廷:廊下 玉座:城内広間 [壁の華] フランク:PCからならば、口惜しそうにしながらも一旦身を引き他の民たちを引き受ける。NPCからならば、重症を与えられ、一時的に動けなくなる。 エリザ:ルージュならば、その場で膝を付き、動きを止める。ノワールならば、絶叫した後、倒れ伏す。 絆奏 エリザ【怒】 ●口上  DRは次の口上を読み上げる。  貴卿らはフランク卿に、応接間で待っているようにと言われて待機している。  失意の表情のままゆっくりと応接室から出て行ったエリザ卿を、彼が追い掛けて行ったからだ。  フランク卿は最後にふたりでゆっくりと話をさせて欲しいと言ったのを、貴卿らは受け入れていた。  だが、そんな待たされている中で貴卿らの居る応接室に、獣のような雄叫びが響き渡った。  急ぎ応接室から出た廊下で、貴卿らはフランク卿と鉢合わせる。 「すまない、私の言葉では届かなかった……!」  フランク卿の語る言葉によるとエリザ卿は自らの堕落を認めたが、暴れだしたという。  彼は完全な堕落でなければ、まだ挽回出来る機会はいくらでもあると説得を試みた。  だが、それも届かなかったと……フランク卿は貴卿らに伝える。  エリザは獣のそれと化している両腕で顔を隠すようにしてから、天井に向けて哀哭するように再び鳴いた。  あれがエリザ卿の成れの果てならば、これ以上罪を重ねさせるのも酷なことだろう。  貴卿らはフランク卿と共に不徳の騎士を討つため、躍り出る。   ●詳細  DRは諸元に従い、各NPCを配置すること。そしてNPCの【存在点】を公開する。  次はプレイヤーにPCを配置してもらう。この幕では[庭園]か[宮廷]にのみ配置できるとする。  全てのキャラクターの配置が終われば、DRは236ページの手順に従い、[終の幕]のラウンド進行を開始する。  DRは必ず、終の幕では[戦の行い][常の行い]の両方が使用できる事をプレイヤーに伝えること。  この幕では失意に染まり、フランク卿の手によって無理やり堕落させられかけ、暴走しているエリザ卿との決戦を行う。  フランク卿は大詰めと言わんばかりに興奮する気持ちを抑えられず、ところどころで笑みを浮かべる場面もあるかもしれない。  とは言え、だからと言ってフランク卿に武芸の才が宿るハズはなく、その戦い方はおそろしく不器用だ。  勿論、騎士としての能力は申し分ないわけだが――そこを突くと、フランク卿はそんなことよりもと目の前の背徳の騎士へと話題を露骨に切り替えようとする。 ・エリザについて  フランクが隠し持っていた堕落者の血を飲まされ、エリザは堕落の兆しを次々と得ながら暴走する。湧き出てくる激情を抑えられず暴走しており、優先的にPCと同じエリアへと向かい、襲いかかる。 ・フランクについて  自らの計画が成就しようとしていることに対して、積年の感情を剣で吐き出さんとしている。 ●エリザのセリフ 「憎い、憎い憎い憎い憎い! 私をよくも、よくも裏切ったなぁぁぁあああッ!!」 (ルージュを与えられ、[壁の華]になった)「……私はずっと、主の為に尽くしたというのに」 ●フランクのセリフ 「あの姿、このままでは人狼に堕ちるかエリザ卿。民を惑わすだけでなく、今度は襲おうとでもいうのか」 (意気揚々と)「さぁ、不徳の騎士を我々で討とう。それが騎士のやるべきことなのだ。戸惑うことはない!」 ●ラウンド進行終了  エリザが[壁の華]となると、ラウンド進行は終了する。 ●幕間  230ページの記述に従い、プレイヤーに[潤い]と[渇き]の精算をしてもらう。  余った[潤い]は消滅するが、必ずしも全ての[渇き]を解消する必要はないことを伝えること。 ■後の幕  PCの選択にあわせて、エピローグを語る。 ●PCが全滅した ・終の幕Aで全滅した場合  アルトロート城は黒山羊の城として民が冒涜的行為に耽る、背徳と快楽と私欲が渦巻く堕落の園となってしまった。貴卿らはいつ完全なる堕落をするかわからないまま、時間に囚われず快楽に身を任せて意識を溶かしていく……。おつかれさまでした。 ・終の幕Bで全滅した場合  ドラクの小領地“アルトロート”で新たに起きたのは、民への殺戮だった。流れている噂によれば、それは一挙に現れた“人狼”や“夜獣卿”による仕業だという。  それらを討伐するため、新たな騎士が出立したというが、それはまた別の物語だろう。お疲れさまでした。 ●エリザを信じた(終の幕A後のエピローグ)  エリザ卿を信じ、貴卿らは黒山羊となったフランク卿を討った。  討たれた後も黒山羊はもがき続け、PCによって取り押さえられる。  PCにヘルズガルド家の者が居るならば彼を封印してもよい。  いなければヘルズガルド家の当主であるマルグリット公が現れ、封印してくれることだろう。  領主を失い、民の多くが正気を失ってしまったドラクの小領地“アルトロート”だが、新たな領主としてエリザ卿が迎えられることになる。  エリザ卿が新たな領主となると彼女には近衛がいないため、PC@やPCAに近衛として傍にいてくれないかと願うかもしれない。PCがそれを望むなら、そのままエリザ卿の近衛としての道を進むことになる。  かつての主のように嫉妬にまみれることはなく、騎士としての正道を心に持つ彼女の治世はよりよいものになるに違いない。 ●フランクを信じた(終の幕B後のエピローグ)  フランク卿を信じ、貴卿らは不徳の騎士となったエリザ卿を討った。  観念しているのか、それとも呆然としているのか、彼女は動く様子を見せない。PCにヘルズガルド家の者が居るならば封印してもよい。  いなければヘルズガルド家の当主であるマルグリット公が現れ、封印してくれることだろう。  また、封印せず彼女を見逃すことも出来る。その場合、彼女は弱々しい足取りでアルトロート城から去っていく。  ドラクの小領地“アルトロート”で起きていた冒涜的な事件は解決した。  フランク卿はPC@を直近の近衛とすることを望むかもしれない。PCBやPCCにはしばらく治世の協力を願うかもしれない。  ただ、フランク卿はこの事件の後からひとりになると突然笑い声をあげるようになったらしい。その声がかつてこのアルトロート城を襲ったという黒山羊の鳴き声と重なって聞こえるという話もあるが――その真実は、誰の知るところではない。