「月に変われぬ我が身なら」 ◆シナリオ諸元 推奨プレイヤー:2〜4人 推奨逸話数:1 篇:1 ◆物語の概要  ドラクの血統に連なる若き騎士キアラ・オーギュスト・バートウィンの領地にて、冥王軍の活動が確認された。領主キアラはこれを討伐すべく出陣するが、嘲笑うように防衛線を掻い潜りゲリラ的な攻撃を行う冥王軍の前に、領地は危機に瀕している。  若き領主の焦燥は日増しに募り、領内の混乱はいや増すばかり。  このままでは、バートウィン領が忌まわしき冥王の手中に堕ちるのも時間の問題であろう。  彼の領の危難を聞きつけた騎士――即ち諸卿らPCたちは、縁深きバートウィン卿とその領地を救うべく、その手に剣を執るのであった。 ◆物語の真相  バートウィン家に仕える家令ハインツは、まだ青年であった頃からキアラに恋心を抱いている。  しかし、日ごとに年老いていくハインツには、騎士であるキアラと永遠を共にすることは叶わない。  恋慕と焦燥にさいなまれるハインツはついに主を裏切り、冥王軍をバートウィン領に手引きした。バートウィン領が冥王領に飲まれれば、そこに生きる騎士や民は亡者と化す。彼は、もはや手段を選ばぬほどに、キアラに恋い焦がれていたのである。  彼は冥王軍の「死の乙女」アリステアを女中として雇い入れ、キアラの作戦を盗み聞かせることで、キアラの心を折ろうとしているのだ。  もしも真相を暴かれれば、彼はPCたちを倒そうとするだろう。PCたちさえ始末してしまえば、バートウィン領占領を阻止できる者はいなくなるからである。 ◆NPC ■“烈華卿”キアラ・オーギュスト・バートウィン・フォン・ドラク  性別:女性 叙勲年齢:17歳 騎士歴:PC@と同程度に調整 【概要】  可憐な外見と苛烈な性格を併せ持つ女騎士。炎のように鮮やかな赤い髪と、蜂蜜を思わせる濃金の瞳を持つ。つねに勇ましい戦支度を身に着け、戦となれば銀のレイピアを創り出し先陣を駆ける。髪に結わえた白い薔薇が特徴で、その苛烈な性情とあわせて“烈華卿”の名で呼ばれる。しかし、PC@と過ごしていた頃は、可憐な白いドレスを気に入っていた。  先代領主であるオーギュスト伯よりバートウィン領を継いで日が浅く、真面目過ぎる性格も手伝って、よき統治者であった先代に応えるべく功を焦る傾向がある。  【真相】  領主としての責任感から威厳を押し出した態度を取るが、実は叙勲前から親交があるPC@に恋心を抱いている。また家令のハインツを口うるさい兄のように慕っているなど、根は素直で純朴な性格である。特にPC@に対しては不安や弱音を打ち明け、助けてほしいと願っている。  なお、恋愛ごとに対してきわめて免疫がなく、騎士のくちづけにさえも照れが残るのか滅多に行うことはない。PCら、特にPC@からくちづけを受けようものなら、彼女は顔を真っ赤にして正体を失くしてしまうだろう。ちなみに、髪に結わえた白薔薇は彼女の育てたもので、PC@の名前をつけて大切にしている。 ■ハインツ  性別:男性 年齢:62歳 【概要】  バートウィン領に仕える筆頭家令。厳格な性格と鋭い眼光を持つ老人。  背の伸びた長身の男性であり、落ち着きある仕草や言葉には一切の無駄も隙もない。丁寧に撫でつけられた灰色の髪に混じる白髪が、わずかに年齢を感じさせるだろうか。  10代の青年の頃からバートウィン家で働き、叙勲こそされていないものの厚い信頼を勝ち得て、邸内の差配を任される家令の座についている。執務のみならず剣腕も相当のものであり、若い頃は騎士であるPCAとも対等に渡り合う実力者であった。 【真相】  ハインツの目的は、冥王の配下と化して、キアラと永遠を共にすることである。  彼はキアラに恋い焦がれている。その想いを先代領主であるオーギュスト伯に気付かれ、叙勲を断られた過去がある。歳老いていく自分に反して変わらず美しいキアラの姿に苦悩し、ついには冥王軍を領内に手引きした。  老いてなお剣の腕は衰えておらず、騎士と太刀打ちすることさえ可能な腕前である。その際は、PCAと同じ武器を使用させること。  ■アリステア  性別:女性 年齢:26歳 【概要】  バートウィン邸に仕える女中。凍るような美貌に似合わない眼鏡が特徴。  冷たい氷色の髪を背中に結わえ、官能的な肢体を地味な女中服に包んだ長身の女性。ハインツの紹介で雇い入れられてからまだ日が浅いためか、屋敷内で道に迷うなど、粗相を見せることもあるようだ。 【真相】  ハインツによって手引きされた冥王軍の精鋭“死美人”。女中として勤めながら防衛の布陣を盗み聞き、効果的に冥王軍を指揮していた。PCBの故郷を襲った死の乙女と同一人物である。 ◆ハンドアウト ■PC@  消えざる絆:キアラ【友か恋】 推奨の道:遍歴・近衛 ・序言  可憐にして清廉な少女騎士キアラ・オーギュスト・バートウィン卿は貴卿にとって特別な存在だ。  彼女が主君の後を継ぎ領主となり、顔を合わせる機会は減ったが、その友誼に瑕疵はない。  キアラと過ごした日々を思えば、貴卿の胸には心地よい熱が宿るのだ。  しかし、近ごろ彼女の所領に、冥王軍が侵攻しているとの噂がある。  彼女の危難を見過ごしてはおけぬ――貴卿は一路、バートウィン領を目指した。 ■PCA  消えざる絆:ハインツ【友か恋】 推奨の道:近衛・賢者 ・序言  バートウィン領の従士ハインツは、主を除けば、貴卿にとってもっとも心許せる存在だ。  今でこそ年老いてはいるが、若い頃には剣の腕を競い合った好敵手でもある。  彼が叙勲されなかったことは不思議だが、それでもなお家令として主君に仕える忠誠は見事の一言だ。  そんな彼の仕えるバートウィン領に、冥王軍の魔の手が迫っているという。  今こそ友との絆を示す時だ――貴卿は一路、バートウィン領を目指した。 ■PCB  消えざる絆:死美人【殺か恋】 推奨の道:狩人・夜獣 ・序言  まだ貴卿が人であった頃、貴卿の故郷は冥王軍の手に堕ちた。  貴卿自身は運よく騎士たちに救い出され、修練めでたく叙勲を受けるにまでいたった。  だが、あの日に見た光景は……家族を、友を踏み躙る氷のような美貌は、今も忘れられない。  バートウィン領を襲う冥王軍の中に死の乙女の姿があると聞いたのは、その折であった。  断じて逃してはならない――貴卿は一路、バートウィン領を目指した。 ■PCC  消えざる絆:キアラ【憐か敬】 推奨の道:領主・遍歴 ・序言 “烈華卿”キアラ・オーギュスト・バートウィン卿は、貴卿にとって家族のような存在だ。  勇ましくあろうとする彼女が、本当は少女らしい心の持ち主であると、貴卿は知っている。  不器用なキアラ卿の在り方は、貴卿にとって微笑ましく、好ましいものであった。  そんな彼女の治めるバートウィン領に、危機が迫っているという。  家族の窮地を捨て置くことはできまい――貴卿は一路、バートウィン領を目指した。 =====【セッションの手引き】===== ◆開演前 ■序の幕  ルールブック223ページの手順に従って、「開演前」の項目を行う。  DRは4種類のハンドアウトから、PLらハンドアウトを選択してもらう。  PCが3名以下なら、必ず「ハンドアウト:PC@」と「ハンドアウト:PCA」が選択されるようにすること。PLが2人なら、「ハンドアウト:PCB」と「ハンドアウト:PCC」は提示しなくてもよい。  PCの自己紹介は特に希望がなければ、ハンドアウトの順番で行うのがよいだろう。 ●状況説明  DRは「物語の背景」を読み上げるとよいだろう。必要に応じて、専門用語や世界観などの補足を入れること。  また、最初の幕の前段として、以下のような演出を入れてもよい。  豪奢ながらも過美に堕さぬ調度でしつらえられた執務室に、少女の声が響く。 「止めないでハインツ! 忌まわしき冥王の尖兵に、これ以上私の領内で勝手はさせられない!」  領主であるキアラ・オーギュスト・バートウィン卿の怒声である。 「お嬢様は疲弊しきっております。この上、単騎で出陣するなど……」  答えるのは、執事服を着込んだ厳格な面持ちの老人である。 「救援を待つ時間はないわ。それに、私には主からバートウィン領を継いだ責任がある」  決然と告げるや、少女騎士は駆け出した。 「PC@……私に力を……」  その刹那、花のような唇から置き去りにされた声は、誰にも届くことはなかった。 ---------------------------------------------------------------------------- ◆篇  このシナリオは〔戦の幕〕、〔常の幕〕の順に幕を開いてゆく。   ■戦の幕  この幕では、バートウィン領に向かったPCたちが冥王軍に敗れたキアラの窮地を発見するところから始まる。PCたちはこの場面に辿り着くまでに合流していたことにしてもよい。PLから希望があれば、別々に辿りついてもかまわないが、かならず全員が登場するよう注意すること。 ●幕の諸元 ・NPC種別 〔端役〕亡者(兵士役/P264)x4・キアラ(熱烈な味方役/P264) 〔脇役〕死美人(P260「死の乙女」を参照) ・NPC配置 庭園:亡者x2/宮廷:亡者x2/玉座:キアラ・死美人 ・存在点 死美人:〔参加PC数x3〕点 ・行動値 死美人:〔参加PC数x8〕 ・壁の華 亡者:PCの任意。ただし、捕縛しても蘇生は不可能とする。 キアラ:PCからであれば、安全な距離まで避難する。NPCからであれば、重傷を負って動けなくなる。 死美人:空高く舞い上がり姿を消す。封印はできない。 ・絆奏 死美人:【殺】 ●口上  DRは次の口上を読み上げる。  バートウィン領に入り、しばしの距離を駆けた頃。  常夜のしじまを破る剣戟の音が貴卿らの耳に届いた。  すかさず駆け付けた貴卿らの視線の先、荒野のさなかに切り結ぶ一群の影がある。  まず目に入るのは、夜天を横切る黒き翼の死美人である。  禍々しき大鎌を振るうその姿、死の乙女と称される冥王の手勢と見て相違あるまい。  その眼下にて蠢く無数の影は、冥王に侵された民の成れの果て、忌むべき亡者どもだ。  それらおぞましき侵略者に、孤剣にて立ち向かう少女騎士の勇敢よ。  彼女こそ“烈華卿”キアラ・オーギュスト・バートウィン卿その人である。  だが、その勇敢は無謀に過ぎた。  貴卿らが見る間にも、大鎌の無慈悲な刃が、彼女の手から剣を弾き飛ばした。  亡者に包囲され、武器さえも奪われた騎士の前に、死美人が舞い降りる。  見せつけるように掲げた凶刃は、少女の細首など容易く斬り飛ばすであろう。  烈華卿の可憐なかんばせに、ついに絶望が陰を差した。 ●詳細  この幕において場所は距離を表すため、情景描写を分ける必要はない。なお端役として登場する亡者は4体だが、演出や描写としては、もっと多くの亡者を登場させてもよい。その場合、演出用の亡者は〔壁の華〕として扱う。  DRは諸元に従い、NPCを配置すること。配置が終わればNPCの【存在点】を公開する。  その後、以下の情報を説明する。 「死美人は自分の手番になればキアラを攻撃して〔壁の華〕にしようとする」  説明を終えたら、PCの配置を行う。この時点では、PCは[庭園]か[宮廷]にのみ配置できる。  全てのキャラクターの配置が終われば、DRは236ページの手順に従い、[戦の幕]のラウンド進行を開始する。 ・キアラについて  PC@の姿を見つけたキアラは嬉しそうに表情を輝かせる。その後で、威厳を取りつくろおうとする。RPを行う際は、PC@の助けを嬉しく思っているが責任感ゆえに素直になれないヒロインとして振る舞うべきだろう。  また、他のPCに対しては彼らの武勇に驚き、賞賛するとよいだろう。PCAとPCCとは、面識があってもおかしくはない。PCが希望するのであれば、そのように演出してもよい。 ・死美人について  死美人は、正体を隠すため声を出さない。RPを行う場合、動作だけで反応を返すのがよい。  PCが「玉座」に移動しなければ、自分の手番でキアラを〔壁の華〕にするが、PCが一人でも「玉座」に移動した場合、そのPCに攻撃を集中させてよいだろう。あくまでもヒロインの危機を演出し、PCにヒロイックな活躍の機会を作ることを目的とするべきだ。  死美人は存在点が0にならなくても、2ラウンド目が終了すれば撤退する。演出は〔壁の華〕になった時のものと同じでよいだろう。ただし、以下の演出を行う。これは、次の幕でPCたちが死美人の正体に気付くためのヒントになるため、可能な限り行うこと。  ○○卿(存在点を0にしたPC、またはPCB)の一撃こそ見事。  悪しき死美人の抗いを掻い潜り、その左腕に深き傷を刻んだのである。  声ならぬ苦鳴をあげるや死美人は翼をひと打ちし、高く空に舞い上がった。 ・亡者について  武装した骸骨と、腐乱した死体が半々。骸骨は冥王軍の配下であり、死体はバートウィン領の民である。  PCが気にかけるようであれば、DRはキアラのRPとして、腐乱死体がバートウィン領の領民であり、彼らの顔に見覚えがあること。そして、彼らに永遠の安らぎを与えてやってほしい、と伝えるとよいだろう。  なお、死美人が〔壁の華〕となった場合、(PCの希望がなければ)亡者はただちに〔壁の華〕としてよい。 ●キアラのセリフ 「PC@、来てくれたのね! い、いやっ、来てくれたのだな!」「なんという武勇か……」「バートウィン領主として貴卿の助力に感謝する」(亡者が倒れた場合)「民よ……私の無力を許してくれ……」   ●亡者のセリフ 「あー」「うー」「うぁー」 ●死美人のセリフ 「(首を傾げる)」「(目を細める)」(PCBに対して)「(誘うように手招きする)」 ■幕間  幕間の処理を行い、次の幕へと以降する。 ---------------------------------------------------------------------------- ■常の幕  この幕ではバートウィン邸内を舞台に、キアラの葛藤とアリステアの正体を突き止めていく場面が描かれる。PCたちはNPCや他のPCたちと交流しながら、この物語の真相に迫っていくことになる。 ・注意  物語に盛り上がりを持たせたいのであれば、PCたちがあまりに早く真相に辿り着かないよう注意するべきだ。そのために、1ラウンドの終わりまでアリステアを舞台上に配置しなくてもよい。諸元に書かれているNPCが登場しないことをPCから質問された場合は、1ラウンドの終わりに登場することを明かしてもよいだろう。  この幕に登場するNPCは、良くも悪くもPCたちに縁の深い人物になる。DRは、PCたちの物語が劇的なものになるように、彼らを動かすのがよいだろう。 ●幕の諸元 NPC種別 〔端役〕ハインツ(兵士役/P264)、アリステア(心なきもの/P264) 〔脇役〕キアラ(データ参照) NPC初期配置 庭園:なし/宮廷:キアラ、ハインツ/玉座:なし 存在点 キアラ:〔参加PC数×4〕点 行動値 キアラ:〔参加PC数×8〕 壁の華 キアラ:玉座か宮廷であれば「薔薇を見てくる」と告げて退室する。庭園であれば「薔薇を眺めていたい」と薔薇園に留まる。エリアからいなくなる。 ハインツ:執務を処理すると言い残し部屋を出る。エリアからいなくなる。 アリステア:正体を明かし薔薇園に向かう。エリアからいなくなる。 絆奏 死美人:【怒】 ●口上  DRは次の口上を読み上げる。  期せずして領主の危機を退けた貴卿らは、彼女の邸宅へと招かれた。  正門をくぐると、いずこからか薔薇の香りが運ばれ来る。 「ご無事のお帰り何よりでございます」  玄関の扉の前に立つ執事服に身を包んだ初老の男が、うやうやしく頭を下げた。その顔には、険しい皺に埋もれるようにして、(PCAの名前)卿がよく知る青年の面影があった。 「ハインツ、嫌味はよし……よせ、客人の前だ」  厳しい視線と棘を含んだ言葉にキアラ卿が弱り果てた声を返すと、バートウィン家の家令ハインツは、あらためて貴卿らに頭を下げた。 「当主の危難をお救い頂き感謝に尽きません。ささやかながら歓待の準備がございます。どうぞ応接室へ」 ●詳細  DRは諸元に従いNPCを配置し、全てのNPCの存在点を公開する。  その後、PCたちをそれぞれ「宮廷」もしくは「庭園」に配置してもらう。  この幕において「玉座」は邸内全域を示す。「宮廷」は応接室であり、テラスからは見事な薔薇園を望むことができる。「庭園」は屋外の薔薇園であるが、そこでの様子は、応接室からは見えないものとする。  1ラウンド目では、NPCは応接室(宮廷)に留まっている。PCたちをもてなすために女中が食事や酒などの世話をしていてもよいが、これらは描写上のものであり、壁の華として扱う。  全てのキャラクターの配置が終われば、DRは236ページの手順に従い、[常の幕]のラウンド進行を開始する。  1ラウンド目の終了時に、以下の演出を行う。  ふいに、応接室の扉が薄く開かれていることに気がつく。  誰かが声をかけると、冷たい氷色の髪を結わえた女中が姿を見せた。  凍るような美貌と官能的な肢体に、野暮ったい眼鏡がまるで似合わない女である。 「アリステアと申します……厨房と間違えてしまいました」  簡素な謝罪を残して、アリステアは立ち去った。  ふと、甘やかな血の香りが、貴卿らの鼻腔をくすぐったように思えた。  アリステアを「玉座」に配置する。  この時、アリステアがルージュによって〔壁の華〕にできない効果を持つ「心なきもの」であることを説明してから、2ラウンド目を開始する。 ・邸内について  応接室や邸内の調度は豪奢なれど過美に堕ちず、慎みながらも貧しくはない、見事な調和の取れたものである。  だが、どこかキアラの持つ雰囲気には似合っておらず、キアラ自身も居心地の悪さを感じているように見える。一方で応接室に臨む薔薇園に対しては、キアラは親しみを表す。  これは、邸内の調度を整えたのが先代領主オーギュストであり、薔薇園を造ったのがキアラだからである。そのため、キアラの態度は邸内・応接室(玉座・宮廷)のエリアにいる時と、薔薇園(庭園)にいる時で変化する。 ・キアラについて  PCたちの助力に感謝はしているが、領主としての重責から、自分の無力を口惜しく思っている。  また、キアラはしきりと髪に結った白薔薇に手を添える仕草を見せる。  この薔薇はキアラが育てたもので、PC@への想いが込められたものである。なので、PCが気が付いたようであれば、その薔薇が具現化されたものではなく本物の薔薇であることを説明するとよいだろう。  キアラは自分の手番が来た場合、庭園に移動する。 ・アリステアについて  アリステアの左腕には、戦の幕から撤退する際に負った傷がある。しかし、これを確かめるために、PCたちが彼女の衣服を脱がせるといった行いを取ろうとした場合、DRはその行いを止めてもよい。みだりに婦女子の肌を暴くなど、騎士の行いとして相応しくないためである。  正体を暴かれたアリステアは、死の乙女としての本性を現して舞台から姿を消す。この事実を他のPCに伝えることはできないものとする。場面を強制的に終了させてもよい。 ●キアラのセリフ ・玉座か宮廷 「……だが、私にもっと力があれば」「このようなことでは、先代であるオーギュスト伯に顔向けできぬ」「次こそ領主として、皆の期待に応えてみせなくては……」(庭園に移動する際)「……気分が優れない、失礼する」 ・庭園 「この薔薇は私が育てたのよ。髪に飾っているのも、同じ花。名前は○○(PC1の名前)というの」「ここにいる時だけが、私が私でいられる時間なの」「オーギュスト伯は立派な方だったわ……私には、もったいないほど」 (PC@によって壁の華にされたら) 「ありがとう、PC@卿……驚かないで聞いてくれる? 私は貴卿を、お慕い申し上げております」 ●ハインツのセリフ 「近頃の戦にてお嬢様はお疲れの様子、どうか失礼をお許し下さい」「此度のことは当領地の恥。どうかご内密に」「どうぞ存分にお寛ぎ下さいますよう」 (PCAに対して) 「久しいな、PCA卿。貴卿は昔から少しも変わっていない」「貴卿との勝負も引き分けのままだったな。老いたこの身では、決着もつけられないだろうが」 ●アリステアのセリフ 「……何か?」(血について言及を受けた)「これは……何でもございません」(正体を見抜かれた)「(眼鏡を外して)……仕方ないですね。予定を早めるとしましょう」 ■幕間  幕間の処理を行い、次の幕へと以降する。 ---------------------------------------------------------------------------- ■終の幕  この幕では、死美人との最終決戦の場面が描かれる。 ●幕の諸元 ・NPC種別 〔端役〕亡者(心なきもの/P264)x4・ハインツ(兵士役/P264)・キアラ(熱烈な味方役/P264) 〔脇役〕死美人(P260「死の乙女」を参照) ・NPC配置 庭園:亡者x2・ハインツ/宮廷:亡者x2・キアラ/玉座:死美人 ・存在点 死美人:〔参加PC数x10〕点 ・行動値 死美人:〔参加PC数x10〕 ・壁の華 亡者:PCの任意。ただし、捕縛しても蘇生は不可能とする。 キアラ:PCからであれば、安全な距離まで避難する。NPCからであれば、重傷を負って動けなくなる。 ハインツ:PCの任意。戦意を喪失する。 死美人:悲鳴をあげて行動不能になる。封印される。 ・絆奏 死美人:【殺】 ●口上  DRは次の口上を読み上げる。  突如、禍々しい羽音が響いた。  黒き翼の凍て風に白薔薇の花を舞い散らせ、死美人が薔薇園に降り立ったのだ。  駆けつけた貴卿らを艶然と見下して、死の乙女が告げる。 「女中の真似事も悪くはありませんでしたが、ここまでです――いいですね?」 「よかろう。彼らを討ち、バートウィン領を冥王の地とするがいい」  死美人の言葉に答えが返った。  舞う花吹雪の中に、得物を抜き放った老執事が立っていた。 「ハインツ……? なぜ!?」 「私はあなたを愛していたのだよ、キアラ……だが、あなたも先代も、私を叙勲してはくれなかった!」  積み重なった情念を、今こそと男は吠えたてる。  その告白は、言葉の刃となってキアラ卿の心を切り刻んだ。 「私は老い、いずれ死ぬ! だが、この地が冥王領となれば、私も永遠を手に入れられる!」 「わ、私は……あなたを、兄のように想っていたのに……」  キアラ卿の膝が折れた。  誰よりも近しかった家族の裏切りは、少女には、あまりにも重かった。 「あなたと永遠を歩むには、これより他になかったのだ!」  キアラ卿の瞳から、ついに涙がこぼれて落ちた。  烈華卿の名で呼ばれた騎士の面影は、もはやどこにもなかった。  騎士たちよ。誇り高き騎士たちよ。貴卿らはこれを許しておくのか?  いざ――剣を執る時だ。 ●詳細  DRは諸元に従いNPCを配置し、全てのNPCの存在点を公開する。  その後、PCたちをそれぞれ「宮廷」もしくは「庭園」に配置してもらう。  全てのキャラクターの配置が終われば、DRは236ページの手順に従い、[終の幕]のラウンド進行を開始する。  全てのエネミーは、PCたちを優先して攻撃してくる。 ●キアラのセリフ 「ハインツ……どうして……」「私が悪かったの……? 彼の想いに気付けなかった私が……」「お願い……ハインツを止めて」 ●ハインツのセリフ 「貴様らにはわかるまい! 騎士ならぬ私の心など!」「騎士共め! 私の想いを否定するのか!」 (PCAに対して) 「構えたまえよ、PCA。貴卿との腕比べに、決着をつけるとしよう」 (PCAからの消えざる絆が【恋】の場合) 「貴卿の想いには気付いていた……なればこそ、叶わぬ想いの苦みはわかろう?」 ●アリステアのセリフ 「下らないですね」「お遊びですか?」「さあ、おいでなさい?」 (PCBに対して) 「先程は無視してしまって、ごめんなさいね……その目、覚えていますよ」「あの夜の続きをしましょう?」 (PCBからの消えざる絆が【恋】の場合) 「フフ……でしたら私達、両想いね(首を落としにくる)」 ●ラウンド進行終了  死美人とハインツが[壁の華]になると、ラウンド進行は終了する。 ■幕間  幕間の処理を行い、次の幕へと以降する。 ---------------------------------------------------------------------------- ■後の幕  PCの選択にあわせて、エピローグを語る。 ●PCが全滅した  バートウィン領は冥王の魔の手に堕ち、貴卿らはキアラ卿共々冥王の配下となるだろう。  お疲れ様でした。 ●キアラとのその後  キアラ卿は、PC@に自分の領地に残ってくれるよう願うだろう。また、キアラ卿には近衛がいない。PC@かPCCにその気があれば、彼女の近衛になってもいいだろう。あるいは、[常の幕]での展開次第では、もっと近しい関係として。  どちらとしても、心の支えを得た彼女の治世は、よきものとなるに違いない。 ●ハインツの処遇  ハインツを討った場合、彼は最後の力でキアラ卿とPCAに対して謝罪して、息絶える。  彼は裏切りの罪人だが、遺体の埋葬については任意としてよいだろう。  ハインツを討たなかった場合、大人しく縛につくだろう。  彼は、通常であれば処刑が相応しい重罪を犯している。PCたちには、その上で、ハインツの身柄をどうするかを問うのがいいだろう。  彼の身柄をどうするか、それが、次なる遍歴の兆しとなるかもしれない。 ●死美人の処遇  力尽きた死美人は身動きが取れない。  PCにヘルズガルド家の者がいれば、これを封印してもよい。  いなければ、ヘルズガルド家当主が現れて封印してくれるだろう。  ただし、万が一。  騎士として絶対にあるまじきことだが、死美人を助けたいとPCが願ったなら……。  そのPCは堕落したものとして扱うべきだろう。 ■終演後の処理  DRは230ページの手順に従い、終演後の処理を行う。 ---------------------------------------------------------------------------- ■データ ●キアラ・オーギュスト・バートウィン・フォン・ドラク(常の幕) 存在点〔参加PC数×4〕 《不退転の覚悟》常/5/0/他の1体/対象にノワールを1点与える。貴卿は次の貴卿のターン開始まで〔強制移動〕の効果を受けない。 《曇りなき忠誠》常/5/0/他の1体/対象が貴卿にルージュを持っているとき、対象にルージュを2点与える。 《薔薇に秘めた想い》常/6/0/他の1体/対象に【潤い】を1点与える。この[行い]は[幕]中に1回だけ行える。 《甘きくちづけ》常/8/0/他の1体/対象と互いにルージュを1点与えあう。この[行い]が[庭園]で発動したとき、対象と互いにルージュを2点与えあう。